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政策と提案
2021/11/09 更新
令和3年奈良市議会10月臨時会 討論(21年11月9日)


令和3年奈良市議会10月臨時会 討論(21年11月9日)


 私は日本共産党奈良市会議員団を代表して、「議案第102号 権利の放棄について」に反対し、「請願第1号 『司法を尊重し仲川元庸市長への債権放棄を行わない旨』に関する請願書」に賛成します。以下、理由を述べます。

 現・東山霊苑火葬場が大正5年の開設で老朽化がすすみ、炉の数が少ないことなどから、現状の設備では高齢化に伴う市民の需要に十分に対応することが困難であり、新斎苑建設は、市の長年の課題となっていました。確定した判決では、「本件売買契約を締結したことにより、本件買収地の価値相当額の利益を得たものと認められる」としており、本件売買により用地取得ができ、新斎苑の建設がすすめられることになったことで、市民全体が相応の利益を得ているといえます。
  そのことについて、判決では具体的に「新斎苑建設は、奈良市における長年の懸案事項であった上、本件売買契約締結当時には、既存施設の老朽化や高齢化に伴う需要の拡大といった事情により、本件買収地を取得して新斎苑を建設する必要性は更に高まっていたものと認められる」とし、本件買収地取得の必要性を認定しています。
  また、「相手方仲川も、そのような必要性に基づいて本件売買契約を締結したのであり、本件全証拠によっても、相手方仲川が自らの利益を図るなど違法不当な目的のために本件売買契約を締結したことをうかがわせる事情は認められない」、「相手方仲川による本件売買契約の締結行為が暴利行為として公序良俗に反するとまでは評価できるものではない」として、これらの点も明確に認定するとともに、売買契約そのものが無効となるものでないことも認定しています。
  本臨時会の本会議や委員会で、奈良市は新斎苑事業の重要性、必要性、土地の非代替性を繰り返し主張していますが、判決はそれらを否定しているものではありません。
 本件判決が問題視し司法判断を下したのは、本件買収地取得の必要性や合併特例債の起債期限、また市長が不法な利益を得たことがうかがわせる事情はないことを考慮したとしても、市が不動産鑑定価格の3倍を超える価格(3.3倍)で土地売買契約を締結したことが、地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項の趣旨に照らし、市長に与えられた裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるという点に尽きます。
  市が依頼した不動産鑑定士による鑑定価格は高額な評価額でも482円/uであり、約1億4,000万円の産業廃棄物処理費用を要することが見込まれていたことや、鑑定評価等に基づく適正な価格で購入することの覚書を両者で取り交わしていること、さらには何ら具体的な活用計画のない追加買収地も含めた売買であったこと等を考慮すると、違法性の認識は容易であったと認められる余地があったのではないかと、委員会審議でわが党が質したことに対し、市側から、判決で本件用地取得価格が適正な範囲内で決定されたものとはいえず、その支出により市の損失の下で土地の前地権者の利益が確保されたと認定されたことは真摯に受け止めると答弁があり、前地権者の契約行為についても「著しく不均衡な価格で売買契約の締結に応じさせた」と認定されたことを受け入れなければならないと、認識が示されました。

判決では、市長が合併特例債の発行期限が延長されることを認識してなお、本件売買契約の締結に踏み切ったといわざるを得ず、合併特例債の起債期限が迫っていたことは正当化する事情とはならないとしています。発行期限延長を市長が事前に認識していたと推認されると認定されたことの背景に、過去の期限延長が国会で議員提案により全会一致で決定されていることや、今回も首長会の要望や報道を通じて成立がほぼ確実視されていたことがあったのではないかと質疑で指摘しました。現火葬場の地元住民や関係者に対して市が移転確約して以降、建設候補地の選定に時間を要したことが結局、特例債の発行期限延長に拠らざるを得ない状況をつくりだしました。
  確定した控訴審判決は、市が不動産鑑定価格の3倍を超える価格(3.3倍)で土地売買契約を締結したことが、理由の如何を問わず、地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項の趣旨に照らし、市長に与えられた裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるといわざるを得ないとして、市長について故意又は少なくとも過失があったと認定、売主側の前地権者2名についても、契約当事者の行動として社会通念上許される範囲を逸脱するものとして不法行為法上の違法を認め、三者が「共同不法行為者」として本件売買契約の締結によって奈良市に生じた損害を賠償する責任・義務を負うというのが判決内容です。
  請求権放棄の議決の影響として、全国に例がなく、司法判断でも認められなかった鑑定価格の3.3倍まで公共用地取得を可能とする事例を奈良市や市議会が認めることになり、今後の市職員の用地取得交渉や債権請求事務に困難をきたすことが容易に想定されます。他自治体に及ぼす影響も甚大です。また新たな住民訴訟が提起される可能性も極めて高く、問題が長期化する恐れがあります。

  本件の同類事例として、浄水場建設予定を適正価格よりも高額で取得したことにもとづく損害賠償請求がされた「栃木県さくら市事件」があげられます。この事例では最高裁判決で権利放棄議決の有効性が認められました。しかし本件と比較検討すれば、その違いも明らかです。例えば、奈良市でこれまで鑑定価格を超えて公共用地を取得した事例は本件以外にはないこと、また本件では一審から最高裁まで至った全ての判決において用地取得の必要性があったとしても、鑑定価格の3倍を超えて取得することは正当化できず市長の裁量権の逸脱・乱用にあたると断じており、「さくら市事件」最高裁判決で首長の帰責性が大きいと断ずることはできないとしている点と、大きな違いがあります。 
  また「さくら市事件」の最高裁判決では、裁判官の個別意見が付されています。そのなかに住民訴訟制度の趣旨を尊重し、首長の賠償責任を全額放棄する議決は違法となるとした裁判官意見があることは無視できず、本件の帰責性を判断するときの考慮要素として鑑みる必要があると考えます。

  先にも述べたとおり、新斎苑建設は本市における長年の懸案事項であり、現火葬場施設の老朽化、高齢化に伴う需要の拡大といった事情の中で、早期の移転建設は市民の切実な願いです。わが党はこの建設事業について、市民の利益に直結する大変重要な課題ととらえ議会の審議に臨み、関連議案をその都度判断してきました。
平成29年12月定例会に上程された用地取得予算は、同予算に含まれた建設事業地西側山 林の追加購入が基本計画や都市計画決定にも入っておらず、突然の提案で具体的な活用計画も示されていないことを指摘し、反対しました。平成30年3月定例会に上程された用地取得契約および工事請負契約案件については、西側山林の防災対策等の活用計画の具体化が始まったことなどを確認し、事業の目的を実現する立場から賛成しました。購入単価に関して本市の最重要課題である新火葬場建設のための公共用地購入で、地権者との覚書にもあるように鑑定評価額を基本とすべきだが交渉による価格決定もやむを得ないと表明していましたが、鑑定価格の3倍を超える価格の用地購入は理由や事情の如何を問わず正当化できないという今回の司法判断は尊重されねばならず、この点について当時の我々の判断は検討すべきところがあったと考えるものです。今後奈良市には用地取得のための体制づくりやプロセスの明確化をはじめ、判示されたことの具体化が求められます。

確定した控訴審判決では、市長および前地権者2名の本件売買契約の締結行為に関連共同性を認め、三者を「共同不法行為者」として認定しており、三者の帰責性は大きいといわざるを得ません。
そのことを踏まえた上で、最高裁判例の「判断枠組み」に照らし本議案を厳正に判断するならば、債権放棄に合理的理由はなく、むしろ債権放棄することは住民訴訟制度の趣旨を没却する濫用的なものにあたる恐れがあります。また市長のみを債権放棄する、市長の責任を不問に付す今回の議案は、憲法14条の「法の下の平等」を定めた憲法原則や、「平等取扱いの原則」を規定する地方公務員法13条の趣旨からみても適正性・公正性を欠くと判断せざるを得ず、認められません。また請願第1号については、その趣旨が妥当なものと考え賛成するものです。

以上、討論といたします。